温泉研究所という名前に、最初から違和感を持たれる方もいると思います。研究所といえば、白衣を着た人たちが顕微鏡をのぞき、データを積み重ねている場所を想像するでしょう。私たちはそういう場所ではありません。

では、なぜこの名前なのか。

私がはじめて本格的な湯治を経験したのは、ある温泉地に長期滞在したときのことでした。当時の私は、慢性的な疲労と、なんとなく体が重い感覚が続いていて、特に大きな病気があるわけでも、医者に何か言われるわけでもないのに、どこかがずっとうまく動いていないような状態でいました。

そこで出会ったのが、湯治場の古い文献でした。江戸の頃から続く温泉地には、「何日入ると、どんな状態が整う」という記録が残っていました。数値ではなく、経験の積み重ねとして。医学の言葉ではなく、暮らしの言葉として。

私はそれを読みながら、これは今の私たちに必要な知恵だと感じました。病気になってから治すのではなく、なる前に整える。この感覚は、現代の医療が苦手としている領域です。でも日本には、その知恵がずっと、温泉という形で存在していた。

「研究所」と名乗ったのは、その知恵を体系的に読み解き、語り継ぐ場所をつくりたかったからです。実験室ではなく、図書室に近い場所。測定するのではなく、伝わってきた言葉を丁寧に読む場所。

私の「研究」は、先人が積み重ねてきた経験の言葉を集め、現代の生活に合う形に編み直すことです。それが温泉研究所のはじまりでした。